1.ダイオード

1-1.ダイオード特性


■学習概要
ここでは,ダイオードの基本特性や静特性について学ぶ。静特性は、ダイオードの動作を理解する上で重要である。


■基本事項
●回路記号と構造
 図1にシリコンダイオード(以下:ダイオード)の回路記号と構造を示す。ダイオードはP型半導体とN型半導体が接合したものである。端子名はP型半導体側がアノード(A)であり,N型半導体側がカソード(K)である。


●実際のダイオード
図2は実際のダイオードの写真である。ダイオードは向きが分かるように,カソード側にマークが付けられている。
 ダイオードの形状にはディスクリートタイプと表面実装(チップ)タイプがある。ディスクリートタイプはリード線が付いており,部品を基板に装着しやすい。一方,表面実装タイプは小型であると共に,基板の表裏の両面に実装できるため実装面積を小さくすることができる。


■基本動作
図3(a)に示すようにアノード側にプラス電圧を加えた場合,電流Iはよく流れる。しかし図3(b)のようにダイオードの向きを変えて電圧を加えた場合,電流はほとんど流れない。このようにダイオードはアノードからカソード方向(順方向)に電流をよく流すが,カソードからアノード方向(逆方向)にはほとんど流さない特性を持つ。この1方向のみ電流を流す作用を整流作用という。
整流作用よりダイオードは,図3(a)の時ON,図3(b)の時OFFとなるスイッチに置き換えて考えることができる。このダイオードのスイッチとしてのふるまいをスイッチング作用という。



■ダイオードの静特性
 ●シリコンダイオードの静特性
ダイオード単体の直流電圧-電流特性をダイオードの静特性という。図5の黒線は一般的によく使われるシリコンダイオードの静特性である。右半分のグラフは図(a)の回路で,左半分のグラフは図(b)の回路で測定される。
●順方向特性
図5(a)のようにダイオードに電圧を加えると0.6~0.75V以下では,電流はほとんど流れないが,それ以上では急に流れ始める。この電流が流れる方向に加える電圧VFを順方向電圧,そこに流れる電流IFを順方向電流という。また順方向で電流が急に流れ始める電圧を立ち上り電圧と呼ぶ。
●逆方向特性
図5(b)のように電圧を加えると,電流はほとんど流れない。この方向に加える電圧VRを逆方向電圧,そこに流れる電流IRを逆方向電流という。逆方向電圧を上げていくと,50~100V程度で急に電流が流れる。この電圧を降伏電圧という。


●ショットキーバリアダイオード
ショットキーバリアダイオード(SBD)の回路記号を図6に,その静特性を図5の青線で示す。ショットキーバリアダイオードは,立ち上り電圧が0.3V程度と低いのが利点である。欠点は逆方向電流がシリコンダイオードと比較すると多く,降伏電圧が低いことである。


■線形特性と非線形特性
 図7は,抵抗とコンデンサに電源を加えた回路とその電圧-電流特性を示すグラフである。加える電圧Vと素子に流れる電流Iは比例する。このような特性を線形特性といい,このような特性を持つ素子を線形素子という。
一方,ダイオードの電圧-電流特性は図5に示されるように電圧と電流は比例しない。このような特性を非線形特性といい,このような素子を非線形素子という。

 

これ以降本章は,図がまだ掲載できておりません.しばらくお待ちください.本内容と図は「設計のための基礎電子回路」に掲載されています.



1-2.作図による解法


■学習概要
ここでは,静特性や動特性を用いた作図によるダイオード回路の解法について学ぶ。作図による解法は,ダイオードに加わる電圧とそこに流れる電流の関係を視覚的に確認できるため,ダイオードの動作を理解するのに役立つ。

■静特性を用いた解法
 ●解法手順
図1のダイオードに直流電圧V1=0.63Vと交流電圧v1= 0.03V が加わった時,そこに流れる電流I1を求める。
図2のダイオードの静特性を用いて,作図して求める手法を以下に解説する。
(1) 電源電圧を求める
直流電圧V1と交流電圧v1の合成電圧V2を求める。V2は, V1とv1を足し合わせた電圧値である。
(2) V2を静特性に書く
電圧V2は,ダイオードに直接加わるため,ダイオードの順方向電圧VFと等しい(V2=VF)。図2のグラフの横軸VFの下に電圧波形V2が記される。これは,ダイオードがV2の電圧で動作することを意味する。
(3) 静特性よりI1を求める
ダイオードに流れる電流I1を図2の静特性を使って求める。図2の静特性の右側に示された電流波形I1は,V2の各電圧点(○,×,△,□,◇)を電流に変換した後,各電流点をつなぎ合わせたものである。
●ダイオードに流れる電流波形
 加えられた電圧V2の交流成分は正弦波であるのに対し,電流I1の波形は,上下非対称である。このような正弦波が変形した波形を歪み波という。正弦波の信号を非線形素子に加えると,そこに流れる電流は歪み波となる。
 ●バイアス
 バイアスとは,半導体に加える直流電圧や電流である。図1のように直流電圧V1を加えることを,バイアスをかけるという。

■動特性を用いた解法
 ●直流解析
図3は,ダイオードD1に抵抗R1が直列に接続された回路である。図4は,図3のダイオードD1の静特性と直流電圧対電流(V0-I特性)である。このV0-I特性を動特性という。
【動特性の書き方】
(1) VR1-I特性をグラフに書く。
電流Iが流れたときの抵抗に加わる電圧VR1を求める。VR1は以下の通りである。
VR1 =IR1  (1)
 図4に式(1)より求めたVR1の結果を示す。
(2) 各電流値においてVFとVR1の電圧を足す。
  電流Iが流れたときの電圧V0は,ダイオードの順方向電圧VFとVR1を加えた値であり,以下の式で求めることができる。
V0=VF+VR1  (2)
 図4に電流I=1, 1.5, 2mAにおける静特性の電圧VFa, VFb, VFc が示される。
V0は,VR1にVFa, VFb, VFcを加えて求められる。またV0が負電圧のときは,D1が逆方向電圧となるため,I=0Aである。

 ●交流解析
 図5は,図3の回路に交流信号v1を追加した回路である。バイアス電圧V1が2.21Vの時と0Vの時,電流I1とVR1をそれぞれ求める。
 ▲V1が2.21Vの時
回路に加わる電圧V2は,V1とv1を足した値である。またV2は,図4の横軸の下側に記される。回路に流れる電流I1は,図4のV2と動特性より作図して求めることができる。求めた電流波形I1を動特性の右側に示す。V2のピークは,計算上2.21+0.51=2.72Vであるのに対して図4のグラフでは,作図しやすいように近似値である2.73Vの箇所に記される。
I1の波形は,図2と比較すると歪が小さい。これは,ダイオードを動静特性の線形特性に近い個所で動作させているためである。
 V1=2.21V時のVR1の波形を図6に示す。VR1は,VR1=IR1の関係より求めることができる。
 ▲V1が0Vの時
 V1=0V時の回路電流I1はゼロである。従って図6に示されるように,VR1はゼロである。

●アナログスイッチへの応用
図5の回路は,アナログスイッチ回路に応用される。V1を変えることで信号の出力をON/OFF制御することができる。オーディオのミュート回路などへ活用できる。