3.増幅回路(基礎偏)

3-1.増幅回路の作図による解法

■学習概要
 ここでは,直流負荷線と動作点を作図し,それを用いて増幅器のしくみについて学ぶ。直流負荷線と動作点を用いると,増幅回路の動作が視覚的に理解しやすくなる.またそれらの理解は,増幅器のバイアス回路を設計する際に役立つ。

■直流負荷線
図1(b)のグラフは,図1(a)の回路の出力電圧VO対コレクタ電流IC特性のグラフである。これを直流負荷線と呼ぶ。直流負荷線は,次式で表される。
VO = VCC-RCIC (1)
式(1)を変形して
IC = (VCC-VO)/ RC (2)
直流負荷線がVO軸と交わる値は,式(1)にIC =0を代入してVO = VCCである。直流負荷線がIC軸と交わる値は,式(2)にVO =0を代入してIC = VCC/ RCである。



■増幅回路と動作点
●構造
図2は,増幅回路である。 入力電圧VINとしてベースバイアス電圧V1と入力信号viが加えられる。コレクタ部のOUTが出力端子であり,増幅された信号voが出力される。
●作図による解法
作図により図2のコレクタ電流ICと出力電圧VOを求める。図3は左側のグラフがトランジスタの静特性(VBE-IC特性),右側のグラフが直流負荷線である。静特性の下側の枠内①に,ベース・エミッタ間VBEに加わるVINが記される。VIN は,V1とviを合成した値である。VINが加わった時のコレクタ電流ICは,静特性を用いて求めることができる。その結果を②の枠内に示す。出力電圧VOは,直流負荷線を用いて求めることができる。その結果を③の枠内に示す。
 ●出力波形の考察
 入力信号viが0.1VPPなのに対して出力信号voは,8VPPであり,信号は増幅される。また,voの位相は viに対して逆相である。また出力信号の波形は,上下非対称であり歪む。これは,トランジスタのVBE-IC特性が非線形特性であることが原因である。
 ●電圧増幅度
 増幅器の信号に対する電圧増幅度Avは,次式で求まる。出力波形は歪んでいるため,増幅度はピークツーピークで計算する。
Av=vo/vi=-8/0.1 =-80倍 (4)
増幅度にマイナスが付くのは,入力波形がプラスの時,出力波形はマイナスになり,符号が逆になるからである。増幅度のマイナス符号は,位相が反転することを表す。



■動作点
 図2の回路において,viを取り除きV1のみを加えた時の直流負荷線上のポイントを動作点という。図3の動作点はIC=2.2mA,VO=5.6Vの箇所である。viが与えられると,voは動作点を中心にして現れる。


 ●VOの動作点を低くした場合
図4は, V1=0.69VとしてVOの動作点を低くした場合である。2-3章のスイッチング動作で学習したように,VO (VCE) は,0Vより小さくなることはなく,0Vでクリップする。それに伴いICも5mAでクリップする。


 ●VOの動作点を高くした場合
図5は,V1=0.56VとしてVOの動作点を高くした場合である。静特性よりVBEが0.56V以下でICはほとんど流れず,波形はクリップする。
 ●動作点の設定場所
VOの動作点は,出力波形がクリップしにくくなるように,電源電圧VCCの半分(VCC/2)付近に設定される。





これ以降は,図がまだ掲載できておりません.しばらくお待ちください.本内容と図は「設計のための基礎電子回路」に掲載されています.


3-2.固定バイアス増幅回路

■学習概要
増幅回路の動作点は,温度が変化しても一定であることが求められる。ここでは,温度変化に対して比較的安定に動作する固定バイアス回路とそれを用いた増幅回路(固定バイアス増幅回路)を学ぶ。

■温度変化による動作点の移動
 3-1章の図2の増幅回路は,温度変化により動作点が大幅に変化するため,実際には使われない。図1は,そのバイアス回路である。また,図2はトランジスタの静特性であり,黒線が25℃,青線が35℃の特性である。VBE-IC特性の立ち上がり電圧は,ダイオードと同様に約-2mV/℃の温度係数を持つ。そのため,温度が10℃上昇すると立ち上がり電圧は20mV下がる。
図2の静特性を見ると,V1 (VBE )が0.7V, 25℃のときのコレクタのバイアス電流(コレクタバイアス電流)ICは, 2mAであるのに対して,35℃のときのICは,3.2mAであり,温度に対して著しく変化する。
図3は,図1の直流負荷線のグラフである(3-1章の式(2))。25℃の時の動作点はVCE=6V (VCC/2)であり,適切な場所に位置する。しかし35℃になると,動作点はVCE=2.4Vに移動し,波形がクリップしやすくなる。

■固定バイアス回路の動作
 図4は,固定バイアス回路である。VBEの温度変化に対してコレクタバイアス電流ICの変化が小さい特徴を持つ。
●動作点
図4の固定バイアス回路の動作点(IC,VCE)を求める。
IB=(V1-VBE)/RB (1), IC=hFEIB (2),
VCE=VCC-RCIC (3)
●安定度
温度変化によって図4の回路のVBEが変化したとする。V1≫VBEとすると式(1)のIBの変化率は小さく,それに伴いIC,VCEの変化率も小さい。
 動作点の移動しにくさを安定度という。固定バイアス回路は,VBEに対して安定度が良い。

■固定バイアス回路を用いた増幅回路
●構造
図5は,固定バイアス回路を用いた増幅回路(固定バイアス増幅回路)である。ベースバイアスに電源VCCが用いられ,単電源(1つの電源)で動作する。ベースには,コンデンサCを介して信号が入力される。コンデンサは十分大きな容量とする。
●入力回路
 図5の入力電圧VBEについて考える。
▲バイアスのみの回路
図6(a)左は,図5の入力信号viが取り除かれた,バイアス電圧のみの回路である。ベース電流IBが流れ,ベース・エミッタ間にVBE’の電圧が加わる。コンデンサには,電流I1が流れて電荷が充電され,直流電圧VBE’が加わる。この充電されたコンデンサは,図6(a)右に示されるように,直流電源VBE’に置き換えて考えることができる。
▲信号を加えた時の回路
図6(b)左は,図6(a)に信号源を加えた回路である。図6(b)右は,充電されたコンデンサCを直流電源に置き換えた回路である。この時VBEは,VBE’とviを合わせた電圧である。ベースにはバイアスと信号電圧が加わり,図5の回路は増幅器として動作する。

【例題】
図5の回路において,以下の問いに答えよ。VCC=10V, VBE=0.7V,hFE=200,
動作点はVOUT=5V, IC=2mAとする。トランジスタの静特性は,図2とする。
(1) RCとRBを決定せよ。
(2) 入力信号vi =10mV(振幅)の時,VBE, IC, VOUTの波形を求めよ。
【答え】
(1) 式(3)より  ,    式(1)より 
(2) 図6(b)よりVBE =VBE’+vi,    図2より,     VOUT =VCC-RCIC