2.トランジスタ


 

2-1.トランジスタの特性

■学習概要
ここでは,トランジスタの基本的な動作と静特性について学ぶ。静特性は,トランジスタの動特性を理解するのに重要となる。

■基本項目
 ●構造と回路記号
 トランジスタは,構造の違いにより,NPNトランジスタとPNPトランジスタに分類される。図1にそれらの構造を示す。トランジスタは,P型半導体とN型半導体を接合したものである。端子名は,コレクタ(C),ベース(B),エミッタ(E)である。


 図2にNPNトランジスタとPNPトランジスタの回路記号を示す。


 ●実際のトランジスタ
 図3は実際のトランジスタの写真である。(a)が表面実装タイプ,(b)がディスクリートタイプである。小信号用トランジスタはサイズが小さく,大電力用は大きい。図3の大電力用は,熱を放熱できるよう放熱板が取り付けられている。


■用途
 トランジスタの用途を大きく分類するとスイッチと増幅器に分けられる。
 ●スイッチ
 図4(a)にトランジスタのコレクタとエミッタ間がスイッチとして動作する様子を示す。ベースに電流を流すことでスイッチはONになる。
 ●増幅器
増幅器は,信号を増幅して出力する装置であり,その回路を増幅回路という。図4(b) はトランジスタを用いた増幅回路である。ベースに入力された信号が増幅されてコレクタに出力される。


■トランジスタの動作
 ●NPNトランジスタ
NPNトランジスタの動作について図5の評価回路を用いて解説する。電源V1からベースに流れ込んだ電流(ベース電流IB)は,エミッタより出力される。IBが流れることにより,コレクタからエミッタ方向にIBのhFE倍の電流が流れる。この電流をコレクタ電流ICという。エミッタからは,IBとICを合わせた電流が出力される。この電流をエミッタ電流IEという。hFEは,直流電流増幅率と呼ばれるトランジスタのパラメータで,その値は50~700程度であり,トランジスタにより異なる。上記のトランジスタの動作より以下の関係式が導かれる。
IC=hFE IB (1), IE=IB+IC= (1+hFE) IB (2)
また,hFEは1より十分大きいため,式(2)は次のように近似できる。
IE≒hFE IB =IC (3)
式(3)の近似式を用いることで,トランジスタ回路は簡単に計算できる。


 ●PNPトランジスタ
PNPトランジスタの動作について図6の評価回路を用いて解説する。電源V2からエミッタに流れる電流(エミッタ電流IE)の一部は,ベースより出力される(ベース電流IB)。IBが流れることにより,エミッタからコレクタ方向にIBのhFE倍の電流が流れる(コレクタ電流IC)。上記の動作よりPNPトランジスタもNPNトランジスタと同様に式(1)~(3)の関係式が成り立つ。


【例題】次の問いに答えよ。トランジスタのhFEは100とする。
(1) 図5において IC=10mAの時、IBとIEを求めよ。
(2) 図6において IE=10mAの時、IBとICを求めよ。
【答え】
(1) IB=IC/ hFE =100μA, IE=IC+IB=10.1mA
【別解】式(3)の近似式を用いるとIE≒IC =10mA
(2) 式(2)より IB= IE / (1+hFE)=99μA, IC=hFE IB=9.9mA
【別解】式(3)の近似式を用いるとIE≒IC =10mA,IB=IC/ hFE =100μA

■品番とタイプ
●品番
トランジスタの品番が「2SC1815GR」と書かれてあった場合,以下の意味を示す。
2: 3本足(足の本数より1つ少ない数が表示)
S: 半導体
C: タイプ(後に説明あり)
1815: メーカーの登録番号
GR: ランク(後に説明あり)
図3(b)上は,このトランジスタの写真であり,「C1815GR」が表示されている。
●タイプ
トランジスタのタイプは,A, B, C, Dの4種類ある。表1にタイプ別特徴を分類,構造,最大コレクタ電流IC(コレクタに流すことができる最大電流),トランジション周波数fT(hFEが1となる周波数),サイズに対してまとめる。Cタイプのトランジスタが,汎用部品として最もよく使われる。


●ランク
hFEは,一定値ではなく個々のトランジスタにより大きなばらつきがある。そのためトランジスタは,hFEの値によってランク分けされる。表2は,トランジスタ「2SC1815」のランク一覧である。同じランク内においても,hFEのばらつき範囲は大きい。


■静特性
図7は,トランジスタの4つの静特性のグラフとその測定回路である。静特性は,トランジスタの直流特性を表し,トランジスタ回路の動作を理解するのに役立つため,よく理解しておく必要がある。
●VBE-IB特性
IBは,VBEが0.6~0.75V以上になると急に流れる。ベース・エミッタ間はダイオードと同じPN接合で構成されているため,VBE-IB特性はダイオードの静特性と同等になる。
●IB-IC特性
 図7(b)は,IB-IC特性である。IBとICの関係は,式(1)より比例関係となる。
●VBE-IC特性
 図7(c)は,VBE-IC特性である。(a) VBE-IB特性と同じ形であり、ICはIBのhFE倍である。
●VCE-IC特性
 図7(d)は,VCE-IC特性である。IBが10μ、20μ、50μAの時のグラフが示されている。VCE =10Vの時,ICはそれぞれIC =1m、2m、5mAであり,式(1)で計算された値と一致する。VCEを大きくするとICは緩やかに増加するが,その変化は小さい。VCEが0.2V程度以下になるとhFEの値が急激に小さくなり、ICは急激に下がる。このICが急に下がる領域を飽和領域という。



これ以降は,図がまだ掲載できておりません.しばらくお待ちください.本内容と図は「設計のための基礎電子回路」に掲載されています.

 

 

2-2.トランジスタ回路の計算


■学習概要
トランジスタ回路の計算方法は、静特性を用いた方法と、近似特性を用いた方法がある。ここでは,基本的なトランジスタ回路を例にして,これらの計算方法について学ぶ。


■ベース抵抗
図1の抵抗RBは、ベース抵抗である。RBは、ベース電流IBを決定するためにベースと電源間に挿入される。

●静特性を用いたベース抵抗の決定
図1のベース部の回路より,次の式が成り立つ。
E1 = VBE+ VRB = VBE+ RB IB (1)
式(1)を変形 RB = (E1-VBE)/ IB (2)

【例題1】
図2のグラフは、トランジスタの静特性である。コレクタ電流ICが1mA、10mAとなるように図1のベース抵抗RBの値をそれぞれ決定せよ。hFE = 100とする。

【答え】
 ▲IC=1mAの時
IB=IC/hFE=10μA
 静特性よりこの時のベース・エミッタ間電圧VBEを求めると、0.69Vである。
式(2)より RB =(5-0.69)/10μ =431kΩ

 ▲IC=10mAの時
 IB=IC/hFE=100μA
 静特性よりVBE = 0.72V
式(2)より RB =(5-0.72)/100μ =42.8kΩ

●近似特性を用いたベース抵抗の決定
 上記の静特性を用いた計算は、グラフの値を読み取る必要があるため手間がかかる。そこでダイオード計算で用いた近似特性をここでも適用する。
図3は,図2のトランジスタの静特性を近似したものである。VBEをIBの値に関係なく0.7Vとすることにより,トランジスタ回路は簡単に計算することができる。

【例題2】
例題1を,近似特性を用いて解け。
【答え】
 IC=1mAの時:式(2)にVBE=0.7V,IB= 10μAを代入 RB=430kΩ
 IC=10mAの時:式(2)にVBE=0.7V,IB= 100μAを代入 RB=43kΩ

例題1で求めたRBと比較すると,値に大きな差はない。以降IBの計算は,近似特性を用いる。


■コレクタ抵抗
 図4の抵抗RCは,コレクタ抵抗である。RCは,コレクタ電流ICをコレクタ・エミッタ間電圧VCE(出力電圧)に変換するために電源VCCとコレクタ間に挿入される。図4の回路は,トランジスタの基本回路であり,後で解説するスイッチング回路や増幅回路に活用される。
図4のVCEは,次式で表される。
VCE=VCC-VRC
VCE=VCC-RCIC  (3)

【例題3】
図4の回路のIB,IC,VCEを求めよ。トランジスタの特性はhFE=100,VBE=0.7Vとする。

【答え】
式(1)を変形  IB = (E1-VBE)/ RB (4)
式(4)に数値を入れて計算  IB = (5.7-0.7)/ 500k =10μA
IC= hFE IB=1mA
式(3)より VCE=10-5k×1m=5V