4.増幅回路(実用偏)

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本内容と図は「設計のための基礎電子回路」に掲載されています.

4-1. hパラメータ


■学習概要
 トランジスタは,小信号に対して4つのhパラメータで表される。ここではhパラメータを使った増幅度の計算方法について学ぶ。


■hパラメータの種類
表1に4つのhパラメータを示す。以下にこれらの解説をする。

●小信号電流増幅率hfe
 hfeは,図1の増幅回路におけるベース信号電流ib とコレクタ信号電流ic の比であり,小信号に対する電流増幅率である。hfeは,次式で求められる。
hfe = ic / ib (1)
これまで使用してきた直流電流増幅率hFEは,添字が大文字であり,直流に対する電流増幅率を表す。図2にhfeの周波数特性を示す。青丸の箇所がhFEであり,それ以外はhfeである。hfeは低い周波数ではほぼ一定であり,hFEと変わりない。本書では,ことわりがない限り,hFEとhfeは,同じ値とする。

●入力インピーダンスhie
 トランジスタのベース・エミッタ間は,直流においては,図3(a)のようにダイオードとして動作するが,小信号においては,図3(b)のように抵抗として動作する。この抵抗値がhieで表される。単位は[Ω]である。
図4は,VBE-IBの静特性である。青色の波形は,図1のベース・エミッタ間に加わる信号vbe(10mV)とベース電流ibである。
VBE-IB特性は、全体では非線形であるが,小信号vbeの動作範囲ではほぼ線形である。そのため小信号に対してベース・エミッタ間を抵抗としてみなすことができる。その入力インピーダンスhieは,次式で表される。
hie = vbe / ib (2)

【例題】図4のvbeと ibよりhieの値を求めよ。
【答え】グラフよりibのピーク電流を読み取り、式(2)に値を代入する。
hie = (0.71-0.69) / (25μ-16μ)≒2.2kΩ

●出力アドミッタンスhoe
hoeは,コレクタ・エミッタ間のアドミッタンス値である。これまでコレクタ・エミッタ間の抵抗値は,∞として扱ってきたが(2-4章図7参照),厳密には,図5のように抵抗R=1/ hoeが接続されたモデルとして扱われる。
hoeの値は大変小さいため,R(1/hoe)の値は,通常コレクタ抵抗RCより十分大きく,出力アドミッタンスは無視される。

●電圧帰還率hre
 hreは,出力電圧voが入力に戻る割合である。hreの値は大変小さいため,無視できる。

■電圧増幅度Av
 hfeとhieを用いて図1の増幅器のib、ic、vO、そして信号の電圧増幅度Avを計算する。コンデンサの容量は,十分大きくそのインピーダンスはゼロとする。
ib: 式(2)より ib= vi/ hie (3) , ic:  ic= hfe ib (4)
vO: 3-3章式(3)より vO=-RC ic (5), Av:  Av= vO/ vi (6)
式(3)~(6)より,次式が導かれる。
(7)
式(7)は,トランジスタを用いた増幅器の電圧増幅度を求める式であり,大変重要である。符号がマイナスなのは,位相が反転することを意味する。


■コレクタバイアス電流Icによるhieの変化
hパラメータは特定の決まった値ではなく,コレクタバイアス電流Icによって変化する。図6の静特性においてIc=1.2mA(IB=12μA)時の入力インピーダンスhie1とIc=2.5mA(IB=25μA)時の入力インピーダンスhie2を式(2)より計算する。vbeの振幅は10mVとする。
Ic=1.2mAのとき: hie 1= vbe1/ib1=(0.69-0.67)/(16μ-9μ)≒2.9kΩ
Ic=2.5mAのとき: hie 2= vbe1/ib1=(0.72-0.7)/(32μ-20μ)≒1.7kΩ
hieは、バイアスIcを大きくするほど小さくなる。

■データシートのhパラメータ
増幅回路を設計する際,コレクタ電流に対するhパラメータの値が必要となる。hパラメータは,メーカーより提供されるデータシートの中に記載されている。図7は,トランジスタ2SC1815のデータシートに記載されているhパラメータである。コレクタバイアス電流ICに対する4つのhパラメータが,ランクごとに表示されている。
IC=1mAの時,ランクGRのhパラメータは,おおよそhfe =300, hie=7.5kΩと読み取れる。ICの増加に対し,hfeは緩やかに増加し,hieは図6で解説されたように減少する。